その町には、小さなカレー屋を営む一人の女性がいた。
負けず嫌いで天真爛漫、みんなのアイドル葱子さん。
この町でカレー屋「パウダー」を始めて7年になる葱子には、幼少の頃からの夢があった。
母の味噌汁以上に美味しいものはない、と断言した父を、自分のカレーで唸らせる事。
彼女は来る日も来る日も、野菜を刻み、肉を炒め、スパイスを調合し続ける。
決意を新たにしたあの日から、移ろう目標とともに、それは毎日続けられてきたが。
そこに既に「情熱」の香りは漂っておらず、「思い」が焦げてこびりついたキッチンには、
日々の残骸が散らばるばかり。
現実を遠くへ追いやり、叶わない夢に向かって、今日も葱子はスパイスの香りに包まれる。